大阪高等裁判所 平成6年(ネ)3036号 判決 1996年1月26日
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する平成六年一月二八日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
四 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 《証拠略》によれば、控訴人は、平成四年九月一日、カツラとの間で、請求原因3記載の債権譲渡予約を締結したことが認められる。
三 被控訴人は、本件債権譲渡予約の効力を争うので、この点について検討する。
1 《証拠略》によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 上田桂資は、昭和三〇年代初めころから、控訴人の取引先の担当者として控訴人に出入りしていたが、昭和四二年ころに独立し、昭和四五年にカツラを設立し、代表取締役に就任し、それ以来、控訴人から寝装品の材料の原綿等を継続的に仕入れるという取引関係を継続しており、年間取引額は昭和五〇年代前半が一億円程度、六〇年代が二億五〇〇〇万円程度で、控訴人に対して常時八〇〇〇万円ないし一億円程度の買掛金債務を負っていた。
(二) 控訴人は、平成三年五月ころ、上田桂資から、在庫を年末までに売却して返済するので、資金繰りのため五億円程度を半年間融資して欲しいとの依頼を受け、これに応じて同年六月から八月にかけて、一般の融資よりも幾分優遇した条件で順次三億円を融資した。
控訴人は、同年一二月ころ、上田桂資から、カツラが粉飾決算をしており、六億円程度の欠損があって右貸付金の年内の返済が不可能であることを知らされるとともに、カツラの経営再建に協力して欲しいと求められ、右貸金の返済を猶予するとともにカツラの経営再建に協力することを約し、平成四年以降、カツラの帳簿類を閲覧して財産状況を把握するとともに、毎月、控訴人の代表者や役員がカツラに赴いて経営方針等について協議するようになった。また、控訴人は、カツラに対し、一般よりやや優遇した条件で貸付を実行し、支払期限を猶予するほか、カツラの代わりに原材料を仕入れたり、カツラの代わりに手形を割り引いてやったりして、その資金繰りに協力した。
(三) 控訴人は、平成四年九月当時、既にカツラ所有の不動産について根抵当権の設定を受けていたものの、先順位の根抵当権が存在していたこともあって、今後引き続きカツラの経営再建に協力、援助を続けていくためには、カツラから担保の提供を受ける必要があると考え、カツラも同様の認識を持つに至っていた。
当時、カツラは、かなり苦しい資金繰りの状態が続いていたものの、取引銀行である九州銀行からの融資も受けており、控訴人の協力、援助を得て経営を軌道に乗せるための努力を続けていた。
控訴人は、カツラと協議した結果、平成四年九月一日、カツラが控訴人に対して現在及び将来負担する一切の債務を担保するためにカツラが被控訴人を含む一一社の取引先に対して現在及び将来有することになる売掛代金債権全額を担保として譲渡することを予約する旨の前記内容(請求原因3)の本件債権譲渡予約を結んだ。そして、控訴人は、取引のある伊藤忠商事株式会社が使用している書式を見倣って、契約書を作成し、上田桂資は、カツラの代表者として、カツラの売掛代金債権の第三債務者として、約一〇〇社の取引先のうちから一一社を選定して契約書の別紙に記載し、契約書及び右一一社分の債権譲渡通知書にカツラの記名印及び代表者印を押捺した。
譲渡の対象となる債権である右一一社の売掛金債権額は、全売掛代金債権額の五〇パーセント以上を占めるものであった。
譲渡債権の譲渡通知を発送する時期は、カツラが控訴人に対する債務の弁済を一度でも遅滞したり、支払停止に陥ったり、その他不信用な事実があった場合とされていたが、控訴人としては、カツラの経営が行き詰まり、倒産が必至の場合に債権譲渡予約を実行するつもりでいた。
譲渡債権の額と第三債務者は、控訴人が債権譲渡通知書の空欄部分を適宜補充して譲渡を受ける金額を決め、第三債務者である右一一社のうちから任意に選択した者に発送できることとされていた。
カツラは、これとは別に、経営が行き詰まった場合には、カツラの手元にある手形を控訴人に交付する旨の約束もした。
(四) カツラは、平成四年一二月二〇日ころ、負債を返済し、経費の負担を軽減するために福岡県大野城市内の本社屋を売却し、同社の配送センターのあった同県粕屋郡宇美町に本社を移転したが、その売却代金約五億円のうち一億六〇〇〇万円を控訴人の前記三億円の返済に充当し、また、同年末には在庫販売代金のうちから一億円を右返済に充てた。
カツラは、平成五年一月ころ、業績が一向に好転せず、手形の決済資金にも不足するに至ったため、和議の申請も考えたものの、何とかこれを乗り切り、その後も控訴人の協力を得て経営を続けた。
(五) 控訴人は、カツラの本社移転に伴い前記債権譲渡通知書の同社の住所を書き直す必要が生じたので、平成五年五月ころ、代表者及び役員らが差し替え用の債権譲渡通知書を作成した上、上田桂資から代表者印を押印して貰った。
(六) 控訴人は、平成五年夏ころ、カツラの求めに応じて、従業員への賞与支払分として一〇〇〇万円を貸し付けたが、約一か月後にその返済を受けた。
カツラの取引銀行である九州銀行は、カツラに多額の融資をしており、カツラ所有の不動産等に抵当権の設定を受けていたが、同年九月末ころ、さらに約五〇〇〇万円の融資を行い、その担保としてカツラの第三債務者に対する売掛代金債権の譲渡契約を締結した。
(七) この間、控訴人のカツラに対する債権額は売掛金、手形金、仮払・未収入金を含めて平成四年六月ないし八月ころには五億円台であったが(但し、前記三億円の融資金を含む)、本件債権譲渡予約を締結した後である平成四年九月ないし一一月ころには六億円台に増加し、前記三億円の返済を受けた平成五年一月以降には、二億円から三億円台の間で推移していたが、本件予約による譲渡債権の合計額を常に上回っていた。
(八) カツラは、経営状態がその後も改善せず、平成五年一一月四日、上田桂資から控訴人に対し、経営の改善に見通しが立たず、廃業する旨連絡し、翌五日に前記約束に従い、ニチイ振出しの三〇〇〇万円の手形二通を控訴人に交付した。控訴人代表者は、カツラの経営が破綻し、本件債権譲渡予約に基づく債権譲渡通知を発せざるを得ないものと判断し、同日、上田桂資の了解を得て、カツラの取引先である被控訴人を含む一一社に対する債権譲渡通知書の日付欄に日時を補充し、譲渡債権額欄にかねてからカツラから情報の提供を受けていた各取引先に対する売掛代金額を記入した上、右一一社に対して右各通知書を内容証明郵便で一斉に発送し、右各通知書は翌六日ころ各債務者に到達した。
(九) 右譲渡通知の発送により控訴人がカツラから譲渡を受けた債権額は、合計二億円足らずであった。
当時における控訴人のカツラに対する債権額は約三億円であったが、その後、カツラから交付を受けた前記ニチイ振出しの手形の決済分六〇〇〇万円、十字屋通販の供託金還付分四二〇〇万円等が入金され、約二億円となった。
(一〇) 被控訴人は、平成五年一一月六日にカツラが被控訴人に対して有する売掛代金債権のうち五〇〇〇万円を控訴人に譲渡する旨の通知書を受領したが、右通知書に押印された印影が被控訴人とカツラ間の商品取引契約書に押印されているカツラの印影と異なり、また、通知書の発信局(大阪)もカツラの住所地(福岡)と異なることから疑念を持ち、カツラに事情を問いただしたところ、同月一三日に上田桂資の妻上田景子とカツラの営業部長は、債権譲渡を否定し、カツラに売掛代金を支払うよう求め、同月一九日に上田桂資も同様の話をしたため、被控訴人は、同日、カツラに対し同時点における債務支払のために額面五〇九一万八一六七円の為替手形を交付して、その後右手形を決済した。
2 以上認定した事実に基づいて、本件債権譲渡予約の効力について判断する。
(一) まず、本件債権譲渡予約はその対象となっているカツラの第三債務者に対する債権が不特定であるとして、無効となるかどうかについて検討する。
(1) 以上認定した事実によれば、控訴人は、カツラとの間において、カツラに対して現在及び将来取得する債権を担保する目的で、カツラが控訴人に対して負担する債務の弁済を遅滞したり、支払停止に陥ったり、その他不信用な事実があったときには、その時点においてカツラがその取引先一一社に対して有するコタツ・羊毛・羽毛ふとん・暖卓台及びこれらのセット等の売掛代金債権について、控訴人がそのうちから譲渡を受ける債権の取引先と金額を適宜選択した上、カツラの債務の代物弁済として控訴人に帰属させることができるとともに、カツラに代わりその名義で第三債務者である取引先に債権譲渡の通知をして、これを取り立てて債権の回収を図ることができる旨の債権譲渡予約を結んだものと認めることができるのであって、債権担保の目的をもって将来の債権を対象とする包括的な債権譲渡の予約が結ばれたものと解することができるのである。
本件債権譲渡予約において、控訴人のカツラに対する被担保債権額が将来増額し不確定であることは、同予約が根担保であることからやむを得ないものということができる。
譲渡の対象となる債権については、第三債務者は、カツラの取引先である約一〇〇社のうちの一一社として具体的に特定されている。債権の発生原因は、コタツ・羊毛・羽毛ふとん・暖卓台及びこれらのセット等の売買取引に基づく商品売掛代金債権とされて特定されているといえる。債権の限度額は、控訴人により債権譲渡通知の発せられた時点におけるカツラの第三債務者に対する債権残額であり、絶えず変動するといっても、限定がなされていないものとまでみることはできない。したがって、譲渡の対象となる債権について、控訴人が第三債務者を自由に選択し、その債権額も決定できるだけでなく、権利行使の終期も定められていないといっても、あくまで右の範囲内にとどまるものであって、目的債権の第三債務者、発生原因、限定額について何らの限定を伴わない包括的な将来の債権譲渡予約とみることはできないというべきである。
債権譲渡通知を発送する時期(予約完結権の実行時)の点についても、カツラが控訴人に対して負担する債務の弁済を一回でも遅滞したり、支払停止に陥ったり、その他不信用な事実があったときとされており、控訴人の恣意的な判断に委ねられているとまでいうことは困難である。
(2) 以上によれば、本件債権譲渡予約における譲渡の対象となるべき債権は、第三債務者、発生時期、債権額、予約完結権の行使時期の点で限定されているものとみることができるのであって、何らの限定を伴わない包括的な将来の債権の譲渡予約として、その効力を否定できないものというべきてある。
(二) 本件債権譲渡予約は、債務者であるカツラやカツラの債権者の利益を不当に害することになるものとして、公序良俗に違反し、無効となるかどうかについて判断する。
(1) まず、本件債権譲渡予約が債務者であるカツラの利益を不当に害するものかどうかを検討する。
先に認定した事実によれば、控訴人は、昭和四二年ころから、カツラとの間で原綿等を継続的に販売するという関係があり、平成三年六月から八月にかけて、カツラの資金繰りに協力する趣旨で三億円の融資を行ったが、カツラが粉飾決算をしており、多額の欠損金を有し、その返済が不能であったことを知り、カツラの経営再建に協力することとなり、カツラに対する融資、返済期限の猶予、原材料の仕入れ等の援助を続けている過程の中で平成四年九月一日に至り、控訴人からカツラに対してさらに援助を続けていくためには、カツラから控訴人に対して担保を提供する必要があるとの合意をみたことにより、本件債権譲渡予約を締結したものと認めることができるのである。
カツラは、平成四年九月一日当時、かなり苦しい資金繰りの状態が続いていたものの、控訴人の援助を得て経営を軌道に乗せるための努力を続けていたものと認めることができるのである。
控訴人は、これとは別に、カツラ所有の不動産について根抵当権の設定を受けていたとはいえ、既に先順位の根抵当権が存在し、担保価値に乏しかったことから、本件債権譲渡予約を締結したのであり、その後、一般よりやや優遇した条件で融資を続ける等カツラに対する援助を増加していることからすれば、カツラの窮状に付け込んで、本件債権譲渡予約を結ばせ、抜け駆け的に自己の債権の保全を図ったものということはできない。
また、本件債権譲渡予約はあくまで債権譲渡の予約であって、控訴人が予約完結権を行使するまでは、カツラが譲渡対象とされた債権を自由に処分し得るのであるから、この点においても、本件債権譲渡予約がカツラの経営を過度に拘束するものとまでは言えないというべきである。
被控訴人は、カツラとその第三債務者との取引においては交互計算契約が交わされているから、本件契約がカツラの一切の経済活動の終焉を目的としたものであると主張するが、カツラと被控訴人との間で交互計算契約が交わされていたと認めることができないことは後述のとおりであり、その他、被控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はないから、被控訴人の右主張は理由がない。
(2) 次に、カツラの債権者との関係について検討する。
<1> カツラは、平成三年一二月当時、粉飾決算をしており、六億円の欠損が明らかになり、一時は和議申請を考慮したことからすれば、かなり資金繰りに窮していたことが窺われるが、その後も、控訴人からの援助等によって営業努力を続け、九州銀行からの融資も行われていたのであって、平成四年九月一日当時は、その経営に対する不安も未だ表面化していない時期であり、控訴人の債権回収が確定的に不能の状態にあったとまでは認められないし、控訴人は、同日以降もカツラに対して資金援助等を続けており、本件債権譲渡予約に基づく予約完結権の行使までにさらに一年二か月を経過しているのであって、控訴人が本件債権譲渡予約によって独占的に債権回収を図ったものとまでは認めることはできない。
<2> 先にみたとおり、本件債権譲渡予約において債権譲渡の対象となったカツラの取引先は一一社であり、その債権の発生原因も特定されていること、譲渡される債権額は、債権譲渡通知の発せられた時点におけるカツラの第三債務者に対する債権残額であり、譲渡対象となった債権の合計額は一貫して控訴人のカツラに対する債権額を下回っていたこと、債権譲渡通知を発送する時期も控訴人の恣意的判断に委ねられているとまではいい難いことが認められるのであって、譲渡の対象となる債権は限定されているものとみることができるのである。
また、譲渡対象となる第三債務者は控訴人が選択でき、譲渡目的とされる債権額も控訴人が随意に決定でき、控訴人の権利行使の時期も定められていないといっても、控訴人としては、右にみたとおり、譲渡の対象となる債権の第三債務者、発生原因、債権額、予約完結権の行使時期の点で限定された範囲内のものであって、何らの限定を伴わない包括的な将来の債権の譲渡を受けることができるものとみることもできないというべきである。
さらに、本件債権譲渡予約は、あくまで、予約であり、控訴人が予約完結権を行使するまでは、他の債権者が当該債権の譲渡を受けて控訴人よりも先に対抗要件を具備したり、控訴人の債権譲渡通知よりも先に債権差押や仮差押をすることによって控訴人よりも優先することからすれば、本件債権譲渡予約は、カツラの他の債権者の利益を不当に害し、公序良俗に違反するということはできない。
譲渡の対象となる債権が担保としてカツラから控訴人に譲渡の予約がなされた旨の公示方法はなされていなかったが、予め、このことを第三債務者に通知すればカツラの信用不安を来し、カツラの営業に決定的に打撃を与えることは必至であって、控訴人及びカツラに要求することは困難であり、また、前記のとおりある程度限定されたものとみることのできる本件債権譲渡予約の内容に照らせば、公示方法を伴わないからといって、本件債権譲渡予約の効力を否定することはできないというべきである。
(3) 以上のとおり、本件債権譲渡予約は有効であると認めることができるのであって、カツラが本件契約の心理的強制を受けて控訴人への返済を余儀なくされていたこと、債権譲渡通知書の差し替えに際しての状況、控訴人がカツラからニチイ振り出しの手形の交付を受けたこと等の被控訴人主張の事実は、右判断を左右するものではない。
四 債権譲渡通知は債権の譲受人を代理人として行われるもので無効であるかどうかについて判断する。
被控訴人は、本件債権譲渡通知はカツラから債権の譲渡を受けた控訴人がカツラの代理人としてしたものであるから無効であると主張する。
前記認定事実によれば、控訴人はカツラからカツラの被控訴人に対する売掛代金債権の譲渡を受けた上、日付欄と金額欄が白地のカツラ名義の債権譲渡通知書を預かり、カツラの名において債権譲渡通知をする権限を与えられていたものというべきであって、この権限に基づいてカツラを代行して債権譲渡通知を発送したものであるから、右通知は有効というべきであって、被控訴人の右主張は理由がない。
五 被控訴人の抗弁について判断する。
1 債権の準占有者に対する弁済
被控訴人は、債権譲渡通知書に捺印された印影が被控訴人とカツラとの商品取引契約書に捺印された印影と異なっており、その発信局もカツラの住所地と異なっており、また、上田桂資や、同人の妻であり、カツラの常務取締役であった上田景子等に問いただし、同人らから債権譲渡の事実を否定する旨の回答を得たため、カツラに弁済したと主張する。
先に認定した事実によれば、控訴人は、カツラから債権譲渡を受け、民法四六七条二項所定の対抗要件を具備したのであるから、被控訴人が債権の譲渡人であるカツラを真の債権者であると信じて弁済をした点に過失がないというためには、控訴人の債権譲受またはその通知に瑕疵があるためにその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があることを要するものというべきである。これを本件についてみると、被控訴人は、債権譲渡通知書に捺印された印影が被控訴人とカツラ間の商品取引契約書に捺印された印影と異なっていたこと、債権譲渡通知の発信局がカツラの住所地でなかったこと、カツラの常務取締役上田景子や上田桂資に尋ねたところ、同人らから債権譲渡の事実を否定する旨の回答を得たことなどから、カツラを譲渡債権の真の債権者と信じたというのである。しかし、被控訴人は、カツラから、カツラの被控訴人に対する債権を控訴人に譲渡する旨の通知を受けたのであるから、押捺された印影等について疑問があれば、債権譲渡の事実の有無をさらに調査すべきであるにも拘わらず、譲渡人であるカツラから譲渡の事実を否定する回答を得たのみで、譲受人である控訴人には何らの確認をしないまま、直ちに弁済をしたというのであるから、被控訴人主張の前記事実のみではカツラを債権者と信じたことについて、やむを得ない事情があるものということはできず、その弁済には過失があったものといわざるを得ない。
したがって、この点に関する被控訴人の主張は理由がない。
2 交互計算契約
被控訴人は、被控訴人とカツラとの商品取引契約においては、交互計算契約が締結されており、カツラが本件売掛債権を譲渡することができないから、その譲渡が無効であると主張する。
しかし、被控訴人とカツラとの商品取引契約書には、被控訴人はカツラからの商品の購入代金の支払を毎月末日締切りで、翌二〇日までに現金または為替手形をもって支払うものとする旨定められているだけであり、また、《証拠略》によれば、被控訴人からカツラに対する代金支払の取扱は、被控訴人がカツラに対する返品とリベートを差し引いて支払金額を決定し、カツラがそのリベートの支払のために相殺、現金払い、商品による支払の手段を選択できるとされているだけであって、交互計算契約をしていたものとは認め難い。
したがって、この点に関する被控訴人の主張も理由がない。
六 以上のとおり、控訴人は、カツラから、カツラの被控訴人に対する本件売掛債権の譲渡を受けたものであるから、被控訴人に対して、本件売掛債権五〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである平成六年一月二八日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払請求権を有するものである。
よって、控訴人の本訴請求は理由があるから認容すべきであり、これと結論を異にする原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから原判決を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 井土正明 裁判官 赤西芳文)